163 ★ 戯 : 旨い不味い

■旨いイモと不味いイモ


ある日八百屋さんでサツマ芋を買った。家で鍋で茹でて食べたところ、不味い。
そこで、八百屋さんに訊ねると、『ありゃー、最初に言えばよかったね。あのイモは茹でたら旨くナインよ。焼かなきゃダメなんだよ』・・・・・。
ヘェーそうだったのかぁ。しかし、大量に茹でてしまったので、不味い思いをしながら、何日かかかってヤッと食べ終えた。
またある日、ショッピングセンターをブラついていたら、目に飛び込んできたのは、〈究極の焼き芋器〉¥5,800なり。早速購入した。
そして、今度こそと意気込んで、またサツマ芋を買ってきた。
焼き芋器にサツマ芋を並べて、スイッチオン。
焼き上がったので、早速食べてみると、不味い。
エッどうして?再び八百屋さんに訊ねると、『皆さん、天婦羅にしたら美味しかったと喜んでラッしゃいますよ』・・・・・。
『そんなぁ、先日は焼いたら旨いって、言ってたじゃないかぁ』と反論すると『あの時のイモと今度のイモは違うでしょ、イモの顔を見て判断しなきゃダメでしょう』・・・・・。
また、不味い思いをしながら、数日かかってヤッと食べ終えた。
ウーム、どんな調理法が向いているのか、どうやって顔を見分けるんだろう?
どうしても美味しいサツマ芋を食べたかったので、今度は事前に聞いてからにしよう。
八百屋さんでサツマ芋の顔を眺めたが、サッパリその違いがわかならい。
そこで、『このイモはどうやって調理したら美味しいでしょうか?』と質問すると、『まだ、食べてみとらんからわからん』とのこと。???
アレェー、『この前訊ねた時は、イモの顔を見て判断できるような事を、言ってたじゃないか』と詰め寄ると、『そうだったけぇ、食べてみなきゃわからんよ』・・・・・繰り返し。
この八百屋さんに不信感を抱き始め、別の八百屋さんに鞍替えした。
そこで、前の八百屋でひどい目に合った事を話したら、『それは、可哀想に、あそこの店は原価の安い売れ残りのイモを集めてるんで有名なんよ。ウチのはマトモなイモだから。マトモなイモなら、どうやって料理しても、旨いモンは旨いよ』とのこと。
そうだったのか、イモが悪かったのだ。それなら今度こそ。
サツマ芋を買い込んで、例の焼き芋器で焼いてみた。
食べてみると、不味い。やっぱり不味い。どうして?
またまた、八百屋さんに訊ねると、『どんな焼き芋器で焼いたんですか?』
メーカーと機種名を伝えると、『それはダメだ。その焼き芋器は評判が悪いんですよ』とのこと。
ムムム、じゃぁ、一体どうすればいいんだ。『誰か、美味しいサツマ芋を教えてくれ−ッ。』
と、騒いでいたある日、プロの石焼き芋屋さんに出会った。
彼は、プロに秘訣を教えてくれと迫った。しかし、企業秘密だからといって断られた。
彼は、諦めなかった。しつこくつきまとった。そうしたある日、遂にプロは秘密の糸口を教えてくれた。
『このイモを焼いてみな』と言って1個のイモを渡してくれた。
彼は、例の焼き芋器で、そのイモを焼いた。
『旨い、こんな旨いイモははじめてだ。イモがこんなに旨いモンだったなんて知らなかった。』
彼は絶叫し、狂喜乱舞した。興奮のあまり一晩中眠れなかった。
次の日、彼はプロに会い、あのイモはどうしてあんなに旨いのかと訊ねた。
プロは『悪いが、それだけは教えられないんだ。絶対の秘密なんだ。教えたら俺は殺される』
更に、『二度と、俺のそばに近寄らないでくれ。アレを渡した事すら知られたら困るんだ』
あの旨いサツマ芋は二度と手に入らない。
せめて、写真でも撮っておけばよかった。
それ以来、彼は図書館を巡って、サツマ芋に関する文献を漁りまくった。
そこで得られた情報は、サツマ芋の品種についての学術情報だが、何処で買えるのかについての情報は一切なかった。
調べれば調べる程、謎が深まった。
大手のスーパーの野菜売り場の担当者にも相談した。『ウチのイモはとても評判がいいですけどねェー』の一言に騙されて、また買った。
やっぱり不味かった。
卸売り市場に辿り着き、『美味しいイモが欲しい』と迫ったら、『コレ食ってみな』と言って1個の焼いたイモを渡された。
今までお店で買ったイモよりは美味しかったので、『このイモを売って貰えないか』と頼んだところ、『イヤー、残念だけど、それは一般への売りモンじゃないんだ。全量行き先が決まってるんで、渡せないんだよ』と断られた。
そこを何とかして欲しいと頼んだら、彼は何処かへ電話をかけて『どうしても分けてくれッてしつこい奴がいるんだけど、如何がしましょうかね』と掛け合ってくれた。
結局、2,3個なら持って行って良いという事になった。
生産地を教えて欲しいと頼んだが、それは絶対にダメだと断られ教えてくれなかった。
一般商品なら教えても良いけど、こうした業務用のモノは生産地自体が企業秘密なんだそうで、幾ら頼んでもダメだった。
結局、3個だけ分けてくれたが、『お幾らでしょうか?』ときいたら、そこにいた人達はお互いに顔を見合わせて、無気味な笑い顔になった。その中のボス格の人が言った。
『持ってけ。ただだよ。無料。零円・・・さっさと行け』
どうしてかと訊ねると『お前に払える額じゃねえよ』と言ったきり、皆何処かへ行ってしまった。

美味しいイモを入手する事がこんなに難しい事だなんて、彼は今まで考えもしなかった事だ。

そうしたある日、彼は163に出ッくわした。
163は彼に美味しいイモの生産地を3ケ所教えた。
彼は会社を休んで、その3ケ所を訪れ、イモを分けて欲しいと懇願したが、断られてしまったそうだ。
その話を聞いた163は後日紹介した内の1つの生産者を訪れ、5kgだけ貰ってきた。
彼に渡したところ、数時間後に上気した顔つきで戻ってきた。
『あれですよ。どうやって手に入れたんですか。滅茶苦茶に旨いですね』と言って喜んでいた。
『実は、あの生産者は163が以前、ある事でお世話した家なんで、特別に年間少量分けてもらえるんだ』という事情を説明した。

彼は、物凄く勉強熱心で、どうしても美味しいイモの秘密を解明したいと意気込んでいた。
あまりの熱心さに心を打たれた163は、お役に立てるかどうかは保証できないが、ある努力をする気があるならば、提供できる情報とモノがある事を伝えた。
試しに彼は言われた通りの実験農場を作った。
農場とはいっても、自宅の庭の一部でできる簡単な仕掛けだ。
そこに163が教えたレシピ通りの土を用意し、美味しいイモの種イモを植えたのだ。
収穫の時期がやってきた。
掘り起こしてみると、見事なイモができていた。
早速食べた彼は感激の涙をこぼした。
そして、『僕は、サツマ芋の生産者になりたい』と・・・・・

遂に彼は周囲を説得し、会社を退職した。そして自分の農場を始めた。
163のレシピ通りにやれば、美味しいイモは幾らでも作れるのだ。
結局、彼は本当に美味しいイモの生産者になり、今ではあるプロの石焼き芋屋さんに供給する専属農家として、笑顔の毎日を送っています。
通常の農家の卸価格の10倍以上の高値で買い取ってもらえるので、とても裕福に暮らせると感謝してくれています。
今では、更に163が提案した、世界中のイモの生産方法についての研究に励んでいます。
カイアポやベニイモやムラサキイモそしてキクイモの生産にも取組んでいます。
理想的な土壌と水で栽培したイモを乾燥して、微粉末化して摂取すると、数々の生活習慣病の改善に繋がる事も話題になり、健康食品や医薬品メーカーからも、多数の相談を受けています。
それらの企業が頼ってくる理由を訊ねると、他の産地のモノと比較にならない著効があるそうです。
今はプロの石焼き芋屋とそうしたメーカーの研究施設として稼動しているため、彼の名前も活動場所も公開できなくなってしまった事が残念です。

公開できる事は、土壌と水の理想的な環境を作れば、どんな作物でも思い通りに育てる事ができるという事です。
一般には植物の成育に必要な栄養分の代表は窒素、リン、カリであり、その配合バランスだといわれていますが、それだけではダメな事を163は提唱しています。

163はこれまでにも、この他にもたくさんの農家を救ったり、育てたりしてきました。
まず、農薬に汚染され、体調を崩していた農家の人を、農薬から解放し、健康体を取り戻す事に成功しました。
何処の農業試験場も大学も行っていない方法で、土壌改良に成功し、植物の成育に役立つ水を作る事に成功しました。
今日では、様々な企業や研究者達も、独自のアイディアを活かして、本当に理想的な植物の成育環境をコントロールする方法を開発しています。
その多くのアイディアが、実は元来農業とは無関係のところから発生している事も不思議ですが、
スタートや経緯はどうであれ、結果オーライでも良いのではないでしょうか。

実に様々な土壌改良や植物栽培技術が研究開発されており、各々の成果を生んでいますが、163達のシステムを導入すれば、何処でもいとも簡単に、無農薬栽培ができます。
最初この話を聞いた人は、そんな事は絶対に不可能だと163達をこき下ろしますが、実際に実験農場を用意してテストした人達は、あまりの出来事に驚嘆し、今度は口々に『このシステムは絶対に他には内緒にしておいてくれ』と懇願されます。『あまりにも画期的なので、俄には信じられなかったが、目の当たりにしてしまうと、まさかこんな簡単な方法で、無農薬栽培が可能だなんて一体誰が信じるか』と絶賛してくれます。

163はこのシステムを秘密にするつもりはありません。
日本中から農薬を排除したいのですが、そのためには163が提唱するシステムを、全国で採用していただかなければなりません。しかし、問題はその材料になる、理想的な土の生産量があまりにも足りない事です。
現状では、年間で4,500しか供給できないのが、悩みの種です。実験に参加したい人はご相談下さい。